「省エネ法改正」で得するのは誰?

 

住宅についてまたしてもおかしな法律が動き出していますね。

 

またしても、というのは2003年に建築基準法に盛り込まれた

「強制換気」に続いてという意味合いです。

 

家の中の有害化学物質を排出するために24時間強制換気ができる 装置を

取り付けることを義務付けた法律でした。

 

確かに、現代の高気密高断熱の住宅では

建材から放出される化学物質が室内に溜まってしまいます。

 

シックハウス症という病気の原因ともいわれていますので

その対策としては有効なのかもしれませんが、有害化学物質を含まない

自然素材で建てられた住宅にもこの「強制換気」が義務付けられました。

 

理由は、後から持ち込まれるカーテンや家具から 有害物質である

ホルムアルデヒドなどが揮発する可能性があるからというものでした。

 

いやはやなんとも曖昧ですが、法律ですので守らざるをえませんよね。

 

でも、本当に原因を解決したいのであれば、 建材に含まれる有害物質の

規制を強化するとか、 気密性を高めることより自然な換気ができるような

建築にするなどのほうが 効果的だだと思うのです。

 

さて、今回は建築基準法ではなく、「省エネ法」にまつわることです。

 

この法律の管轄は環境省、と思いきや国交省と経産省です。

 

限りある資源を大切に使おうという「省エネ」は私も大賛成です。

当然推奨されるべきものだと思います。

 

ですから、省エネを法律で定めること自体に異論はありませんが問題は中身です。

 

2020年を目途に義務化になるといわれている今回の法改正は、

一言で言えば、 「省エネ産業への利益誘導が目的なのでは?」

と言いたくなってしまう内容です。

 

本来住宅というのは、 その国や地域の気候風土に合った形で文化とともに

継承されてきたものであり、 誰からも強制されるべきものではないはずです。

(もちろん他人様に迷惑をかけないという前提で)

 

エネルギーを浪費しないためにある種の基準を設けることについては否定しませんが、

その基準や評価が室温や断熱性能といったもので画一的に数値を決めるというのは、

住まい手の選択の自由が奪われてしまう結果となってしまいます。

 

実際、この法改正でも「外皮性能」「一次消費エネルギー」という2本柱で

基準が作られていますが、これらはそもそも高気密高断熱という現代住宅が前提であり、

自然住宅や伝統工法で建てられた家にはなじまない評価項目が目につきます。

 

これまでの省エネ法は、 「こうすると省エネになっていいよ」 という推奨法でした。

 

これが法改正によって強制法に生まれ変わろうとしているのです。

 

その内容とは…

 

■「外皮性能」という評価軸

「外皮性能」とは、窓などの開口部も含めた断熱性・気密性を高めることにより、

空調設備で得た温度をなるべく損なわないようにする性能のことです。

数値化して判断されるもので、実際の計算方法などは インターネットでも閲覧

できますのでご興味のある方はご覧いただければと思います。

 

ここではポイントだけお伝えします。

 

例えば、窓ガラスであれば、ペアガラス(2重ガラス)のほうが外皮性能として

優れているということになりますが、日本の住宅によく使われる「引き戸」は、

2重ガラスにすると重くなってしまうので通常単板ガラスです。

 

さらに、引き戸はレールを使うので構造上隙間ができます。

 

そうすると評価が下がってしまいます。

 

また、最近は少なくなりましたが日本の住宅の特徴的な作りといえば「縁側」ですね。

 

 

 

冬場はポカポカ、お茶を飲んだり梅を干したりできる日本住宅ならではの空間ですが、

法律ではあくまで外界と接している境界しか見ないので、いくら縁側の内側に障子が

あっても外と接するガラス戸が単板でれば外皮性能は低く評価されてしまいます。

 

障子はあってもなくても同じということです。

 

さて、肝心の評価基準ですが、

 

「冬の暖房時で20℃、夏の冷房時で27℃に室温をキープするべし」

 

というもので、すべての新築住宅に対して義務化されます。

 

義務ですので、もしあなたが「冬でも18℃で十分」 といったところで認められません。

20℃をキープできるだけの設備を備える住宅にしなくてはならないのです。

 

この点が、省エネ産業への利益誘導、需要の喚起ではないか?

 

と思わざるを得ないところです。

 

みなさまの中には、自然素材の住宅にお住まいの方もいらっしゃるかと思います。

我が家も賃貸ではありますが、壁と天井は漆喰仕上げです。

 

土壁は調湿作用があるおかげで、それほど空調を使わなくても冬暖かく

夏はさらりと過ごすことができます。

 

冬場でも16℃くらいで十分なように思います。

 

夏場はしっかり汗をかく!ということですね。

 

余談ですが、ここ数年テレビのニュースなどでやたらと「熱中症」について

報道されていますよね。

 

でも、クーラーの普及率と熱中症の発生率が比例していることは

あまり触れられることはありませんね。 

 

「クーラーのせいで汗がかけず体の中に熱がこもった結果として熱中症になる」

というあるお医者さんの意見に激しく同意です。

 

快適な温度というのは人それぞれですし、 一定の室温にするのが健康のためかというと

必ずしもそうとは思えません。 暑すぎず寒すぎずという「程」が大切だと思います。

 

 

■「一次消費エネルギー」について

これは設計する段階で算出する、その建物の消費エネルギー

(暖房+冷房+換気+給湯+家電)の総和です。

 

基準値以下になるように設計しなければならないわけですが、

これが先ほどの「外皮性能」以上に不可解なのです。

 

まず、設計の段階、つまり机上の計算という点です。

前提は、高気密高断熱の現代住宅なのです。

 

でも、そもそも自然素材で日本の気候風土に合った建築であれば

冷暖房の使用頻度も少ないでしょうし、そうした家に住まう方は 省エネ意識も高く、

エアコンではなく扇風機や薪ストーブといったものを 選択するケースも多いと思います。

 

しかしながら設計の段階での話なので、そうした“暮らし方”は反映されません。

 

さらに、一次消費エネルギーを算出する上で問題と感じるのは、 空調設備ごとの評価です。

 

例えば暖房設備のリストを見てみると、コタツなどの家電はありません。薪ストーブもありません。

 

ずらりと並んでいるのは、エアコン以外は建築時に取り付ける高価な暖房設備ばかりです。

 

FF暖房機、パネルラジエター、温水床暖房、ファンコンベクター、電気蓄熱暖房機などなど、

初めて聞くものも少なくありませんが、これらの省エネ評価は高いです。

 

一方で、コタツや薪ストーブはそもそもリストにありませんので 項目としては「その他」に

該当するのですが、 評価は「特に省エネ対策をしていない(高効率ではない)

ルームエアコン」と 同じになってしまいます。

 

とっても不自然ですよね。 「お金を掛けない省エネは認めない!」 ということなのでしょうか。

 

 

■「伝統建築」が消える?

「真壁(しんかべ)」というのをご存知でしょうか?

 

大雑把にいうと、柱を露出する壁で、和室や数寄屋造りや書院造りに 用いられる

伝統工法のひとつということになります。 いわゆる「土壁」のイメージです。

 

一般住宅に用いられることもあります。

 

この「真壁」、竹を格子状に組み、縄で固定した上に土を塗るので 基本的に断熱材は入りません。

(一般住宅では断熱材を入れるケースもあるようです)

 

土の特性を生かした調湿作用、地震にも強い、破棄するときにも環境負荷が少ない という

いいこと尽くめのまさに日本に適したものなのですが、「外皮性能」という 単一的な視点では

とても評価の低いものになってしまいます。

 

すでに建築さている自然素材+伝統工法を用いた住宅を改正省エネ法に 照らし合わせてみると

、「外皮性能」は基準を満たしていない、 「一次消費エネルギー」を計算してみると「省エネ性能の

悪い家」という 位置づけになってしまったそうです。

 

ところが、実際に住んでいる方の光熱費から積算してみると、 暑さ寒さを我慢して省エネした

ということではなく、 快適な温度設定で暮らしていたにも関わらずかなり優秀な数値がでたそうです。

 

机上で計算した数値と実際の数値は3.7倍もの開きがあったそうです。

 

暮ら方、暮らしの知恵を一切考慮しない画一的な基準が法律で定められることにより、

心地よい日本の伝統木造建築が消えてしまうかもしれません。

 

■大事なのは「選択の自由」

私は、この「改正省エネ法」について、最大の問題点は 暮らしての選択の自由が奪われてしまう

ということだと感じています。 人はそれぞれ個性があり考えも違えば好みもさまざま。

ボタンひとつでお風呂が沸く家を好む人もいれば、 隙間風がひゅうひゅうでも築何十年という

古民家を好む人もいます。

 

家に限らず、車でも洋服でも食でもなにを選ぶかは本人の自由であるべきだと 思っていますし、

私自身もそのように暮らしていますので、その意味でなにかを 批判するということはないのですが、

「選べない」ということについては 異を唱えていかなくてはならないと思っています。

 

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今回も最後までお読みいただき誠にありがとうござました♪

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※この記事を書くにあたり「職人がつくる木の家ネット」にイラストを お借りするとともに、

代表であり建築家の大江忍さんにたくさんのことを 教えていただきました。

この場をかりて御礼申し上げます。

 

木の家ネットさんのHPもぜひご覧になってください。

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